皆さん おはようございます。
瞬く間に9月も月末に近づき、来月はもう10月。
そう、ビンテージカーのドライブに一番適している季節です。
今年の様に異常な夏の暑さでは、車にとっても過酷な環境ですよね。
特に私が専門に扱う、1970年前後の車であれば、
現代と比べて、まだ街を走る車の絶対量が少ない時代。
今から40数年前の1974年秋頃、
イタリア最高級スポーツカーの一つとされる
「マセラーティ ギブリ」の運転が許される日が訪れました。
(私が生まれて初めて乗ったイタリア最高級車)
ちなみに、この「Ghibli」とはサハラ砂漠に吹く熱嵐の事。
「Bora」は、スイスアルプスからアドリア海に吹き下ろす風。
「Kahamsin」 はエジプトの砂嵐。
この様にマセラティは、「風」にちなんだ名前を車に命名しておりました。
今のフェラーリが、
「ローマ」や「マラネロ」など単純に地名を名付けるよりセンスがあると思います。
さて、その憧れていたギブリの運転は、
ある日突然、会長の松澤兄から言われました。
「近くのガソリンスタンドでガスを入れて来い」と。
まだ仮社屋だった営業所からスタンドまでは3キロ位。
私はドアを開け、低く沈んだシートに座りました。
実際この車は、何故かシートの高さが低く、
普通に座ると、ダッシュの位置が高く前方が見づらいのです。
目の前には、
「ベグリア」というメーカーの名前が入ったメーターがずらりと並んでいます。
私はイグニッションキーを捻り、
まずは電動ポンプでガソリンが送られる音を確認しました。
今のと違い、当時の電磁ポンプはしっかりと音が聞こえました。
電気を送ると、初めはカッカッカッと速い連続音が鳴ります。
2~3秒経ってキャブレターのフロートにガソリンが一杯になると、
その音は次第に遅くなり、
「カッ、カッ、カッ、エンジンにガソリンを送ったよ」と、
ドラーバーに教えてくれるのです。
こんなギミックも、昔の車ならではであり、
今の車の様な無気質な物とは対照的です。
これはマセラティだけでは無く、
当時全てのキャブレター車に共通しておりました。
人間は眼と耳と、触感で情報を受け入れると言いますが、
当時の自動車は、そういった意味では、全てをドライバーに伝えてくれました。
しかもそれらを直接伝え、それを人間が頭で判断する材料にする。
このアナログ的な動作を要求し教えてくれるのが、
「ビンテージカーの一番の魅力」と言っても過言では無いでしょう。
例えば「音=エンジンの音=マフラーからの排気音」
これは昔はそれぞれのメーカーで全て異なりました。
フェラーリ、ランボルギーニ、マセラーティ、ポルシェ
私は眼を閉じて、
「エンジン音」を聞いただけで何処のメーカーか直ぐに分かります。
「でも今は?」
それはかなり難しいでしょう。
今は「音」一つ取っても、個性が無くなっている証拠です。
さて話がそれました。
私はイグニッションキーを電気オンの位置から、
次のセルモータースタートの位置まで捻りました。
すると4,900cc V型8気筒DOHCエンジンは、
重そうなクランキングをした後、傲然とかかりました。
その音は長いマフラーから絞るように繰り出す。
グォーンというかなり低い音でした。
私は昨日レストアの仕上げを、
当社に15年いた椎葉の熊本工場から門司港までローダーで運ばせ、
そこから横須賀港に着いた「フェラーリ365GTC4」を引き取りに行きましたが
そのサウンドは、まるで管楽器の様、フゥオーンととても軽い音。
マセラティとは、まるで違います。

この車は以前、赤だった個体
話は戻ります。
私は重いアクセルを数回踏んでみて、吹け上がりの感触を覚えました。
一言で言うと、アクセルも重いがエンジン自体の吹け上がりも重い。
フェラーリに比べたら、タコメーターのレッドゾーンもかなり低い。
つまりこのエンジンは、高回転型では無くトルク重視だなと。
私は学生時代から多数のバイク経験を積み、
おまけに一応、専攻は航空原動機のエンジン学科卒。
その辺りには詳しい訳です。
それは結構、ストロークのあるシフトレバーを1速に入れ、
やはり重いクラッチを慎重に繋げて路上に出て
3,000回転くらいまで加速して実感しました。



















その後、ありとあらゆるスポーツカーを走らせる事になるのですが、
意外とファーストインプレッションが、その性格を捉えていることが大半です。
それは「人間」でも同じです。
だから初対面の時は心がけて対応します。
「自分は出来ている」と思っている方も、
再度、心配りを意識してみて下さい。